「ひやおろし」「秋上がり」とは
日本酒の世界で秋を代表する風物詩ともいえるお酒です。いずれも冬から春にかけて仕込まれた新酒を夏の間に蔵でじっくりと寝かせ、ほどよい熟成を経て秋に出荷されるため、円熟した旨味とまろやかさを楽しむことができます。

ひやおろしは、冬に仕込んだ新酒を春先に一度火入れ(加熱殺菌)し、ひと夏を低温で貯蔵した後、秋口に火入れをせずにそのまま瓶詰めして出荷されるお酒です。夏を越すことで荒々しさが落ち着き、角の取れた柔らかさと深みのある旨味が生まれます。ひやおろしは「冷や(常温)で卸す」ことから名づけられたと言われ、冷酒でも燗でも楽しめますが、常温やぬる燗にすると一層ふくらみのある味わいを堪能できます。
一方、秋上がりは「夏を越して味が上がる」ことから名づけられた言葉で、同様に夏の熟成を経た日本酒ですが、より深い熟成感や旨味の厚みを重視したタイプを指すことが多いです。酒蔵によって定義はやや幅広いものの、ひやおろしよりも落ち着いた風味やコクを特徴とし、秋の味覚に寄り添う味わいが魅力です。
楯野川 純米大吟醸 源流冷卸
毎年秋季に数量限定で出荷される「楯野川」の冷卸(ひやおろし)です。2024年の「源流冷卸」は、柔らかく綺麗な膨らみを感じられます。しっかりとした旨みがありながらもキレのよい食中酒。
富久長 秋櫻〈コスモス〉 純米 ひやおろし
直汲み原酒を1本ずつ丁寧に瓶火入れ、瓶貯蔵して、ひと夏ゆっくりと寝かせています。軟水醸造ならではの柔らかい旨味を大切にしながら、辛口にすっきりと仕上げて、富久長らしいひやおろしを表現しています。
陸奥八仙 緑ラベル 特別純米
一度火入れを加えた後に、貯蔵庫で夏のあいだ寝かせてあるため、時間によって程よく熟成が行われています。絞りたての際の粗さが取れ、丸みを帯びた1本です。
尾瀬の雪どけ 純米大吟醸 ひやおろし
林檎系の上立ち香、口中に含むと米の旨味と共に洋梨系の果実香が広がり、果皮を想わせる僅かな渋みが、アクセントとして蜜様な甘みを引き締める。余韻は長くキレは潔く、秋の夕暮れのように心に残る印象を演出します。
※仕入れ状況により、提供できない場合がございますのでご了承くださいませ。
季節のお酒の愉しみ方
楽しみ方としては、旬の食材と合わせるのが最もおすすめです。松茸や秋刀魚、戻り鰹といった香り高い料理、またはきのこや根菜を使った煮物、脂ののった魚などと相性が抜群です。ひやおろしは軽やかさと旨味のバランスが良いため前菜や刺身に、秋上がりは濃厚な肉料理や煮込み料理と合わせると、その味わいを引き立てます。
移ろいゆく季節の中で味わう「ひやおろし」と「秋上がり」は、ただ飲むだけでなく、秋の実りや気候の変化を感じさせてくれる日本酒です。飲み比べて個性の違いを楽しむのも、秋ならではの贅沢といえるでしょう。